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『内野家文書(殿居村庄屋文書)』 -下関市立豊田文化財資料室

内野家文書(殿居村庄屋文書)を解説した刊行物です。
内野家文書(殿居村庄屋文書)一

発行年:平成20年3月
著 者:下関市立豊田文化財資料室長 田中俊郎
発 行:下関市立豊田文化財資料室
ページ:231ページ
1. 文書の概要と寄託経緯
江戸時代の殿居村(現在の山口県豊田町)に伝わる庄屋文書。昭和29年に見龍寺へ寄託され、平成14年に見龍寺が無住となった後、寺の総代から本室へ寄託。
2. 殿居村の地理・歴史的背景
薩摩藩の前大津宰判管轄(萩本藩領)に属し、隣接の八道村は長府藩領。「殿居」と「殿井」の表記は時代により変遷し、天保13年以降は「殿居村」と統一されるが、文書上は「殿井」表記が依然として残る。
3. 住民構成・人口・年齢構成(嘉永4年)
戸数総計 82軒(寺社含め84軒)・住人口 339人(男179・女160)。
男・女ともに公式人数よりそれぞれ 1人ずつ多く、年齢別人数に違いがある。
平均年齢 36.5歳(男 37.3歳、女 35.7歳)で、八道村(平均 33.5歳)より約3歳高い。
最高齢 85歳(市右衛門)。男女比は男性がやや多く、年齢階層は5歳刻みでピラミッド型。
4. 文書の分類・内容
住民名簿・家族構成帳(全住民の名前・年齢・続柄・牛馬所有等)
男性の名前は約36%が判明。既婚女性は「母」・「妻」と表記のみで名前は不明。
養子、年齢区分(60歳以上・15歳以下)も記載。
品定・御書附(安永2‑4年)
財政逼迫への対策として、身分別の服装・使用物の制限を規定。上位・下位の身分に応じた「着用可/不可」を示す。
米関係帳(御米方・御米銀・上納米)
米の上納・船送・陸送の詳細、船頭別・年別の運賃・量が一覧化。
「御米箱」「米請払帳」では米の欠損・余剰、金銭差引が明記。
足役・足役関係帳(文政9年・嘉永3年)
足役(人・馬)別の配属・配給・報酬が記録。畔頭・儀兵衛組に分かれ、出張・奉仕の細部が分かる。
足役は「畔頭」や「儀兵衛」の二組に区分され、農作業・運搬・公共事務に従事。
農業巧者に問う十ケ条(天保12年)
農業技術・作業規範に関する質問状。陽地・陰地の耕作態度、苗代・水はけ、種子選定、作柄の違いなど10項目にわたる指摘と要請が記載。
5. 住民数・氏名・家族構成の特徴
既婚女性の名前が判らない点が突出。約36%の男性名が判明し、残りは「右衛門」「左衛門」等の通称に留まる。
牛・馬の所有は詳細に記録され、寺社所有の家畜は別枠で集計。
住民名のうち、八道村に見られる「蔵」「左衛門」「之丞」系の名前は殿居村では出現せず、地域差が認められる。
6. 米上納・輸送の実務形態
船送:阿川浦へ向けた船頭(例:万右衛門)7隻が米を運搬し、運賃米や浜出米が改めて計上。
陸送:陸道での米輸送は「一俵」単位で記録され、上納期限は通常3ヵ月以内。
米欠損・余剰は「欠け米」や「余分米」として別枠で管理され、金銭差引帳で精算。
7. 足役関係の詳細
「諸方足役帳」や「足役別米帳」から、足役の人数・配属先・米・俵支給が把握できる。
目的地は主に萩・吉敷・深川(藩の主要農産地)で、足役は人馬別に区分されている。
8. 「品定」の意図と解釈
藩財政危機に対し、衣装・装身具の奢侈を抑制し、質素な生活様式を全体に浸透させることが目的。
上位(大身)には緩やかな規定、下位(小身)には厳格な制限を設け、全体での支出削減を図る。
9. 「農業巧者に問う十ケ条」の課題と学術的意義
文中の質問は、農業技術の向上と農村経営の合理化を図る藩政の試みとして位置付けられる。
「日本農業全集」第29巻でも取り上げられ、同文書が江戸末期の農業指導政策の実例であることが示唆される。
10. 文書が全藩命令か局部命令かの議論
「品定」や米上納の指示は、殿居村だけでなく、先大津・前大津両宰判の管轄地域全体に同様の文書が存在。
徳川大坂蔵屋頭人の高杉又兵衛(代官)が発した命令と、庄屋伊藤惣左衛門が編纂した文書が一致している点から、全藩的な命令である可能性が高いと判断(筆者の最終結論)。
11. まとめ
内野家文書は、殿居村の社会・経済・農業実務を包括的に示す貴重な一次資料であり、特に住民構成の詳細、米上納・輸送の実務、足役制度、そして藩全体の農業指導政策が明らかになる。これらのデータは、近世山口県の農村史・人口史・財政史を再構築する上で不可欠であり、今後は他藩・他村との横断比較や定量分析を行うことで、江戸末期の地方行政と農業改革の実態をさらに深く解明できると期待される。
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