タガメLethocerus deyrolliは、カメムシ目Hemipteraコオイムシ科Belostomatidaeタガメ亜科Lethocerinaeタガメ属Lethocerusに属する水生昆虫です。体長は大きいものでは、7cmに達し、水生昆虫の中では日本最大です。分布は、北海道を除く日本全土と中国、朝鮮半島にあります。タガメは、肉食性で、生きたカエルや魚、時にはヘビなど自分より大きな生き物も鎌状の前脚で捕らえて捕食します。捕食は、いわゆる体外消化で、針状の口で突き刺し、体液を吸います。日本には、タガメL. deyrolli以外にも、タイワンタガメL. indicusが与那国島で記録されています。
  タガメは、戦前までは、日本全国でふつうに見られる昆虫でしたが、戦後の急激な環境改変や農薬、街路灯の影響によって、急速に減少し、絶滅の危機に瀕しています。山口県西部及び九州北部では、近年の採集記録はほとんどないのが現状です。
 タガメの雌雄 (左メス、右オス)
一般的に、オスよりメスの方が一回り大きい。
 タガメの住む環境
タガメは、植生の豊かな休耕田や水路、水田、ため池の縁などに生息します。
>>タガメの生活史
タガメは成虫になった年には繁殖は行わず、翌年から行います。越冬は、水の中で行う個体もいますが、多くは水辺ではなく山中の落ち葉の下で行います。冬を越した成虫は5月下旬から水辺に現れます。卵は水面上に突き出た棒、杭に70個程度の塊として産みつけます。約一週間でふ化し、ふ化した幼虫は直ぐにエサを食べます。5回の脱皮を経て成虫になります。

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>>保育行動

 卵塊を保育するオス
 タガメは、卵を水面から突き出た棒などに産み付けます。卵は、塊となって産み付けられ、一つの塊(卵塊)には、50〜100個の卵があります。卵は、十分な水分と十分な酸素がなければ、正常に生育できません。そこで、オスは、卵がふ化するまでの間、夜になると体につけた水や口に含んだ水を卵にかけて保育します。また、日中非常に日差しが強いときなどは、卵塊に覆いかぶさり、卵塊を保護します。 
 保育行動する昆虫のほとんどは、メスが従事しますが、タガメやコオイムシの仲間は、オスが従事します。
>>“卵こわし”行動

 メス(下)から卵を守ろうとするオス(上)

 オスを振り払って卵を壊すメス ■ 壊された卵塊
タガメは、ライオンなどで見られる子殺し行動を行う唯一の昆虫として知られています。この行動の目的は、メスが交尾相手(=保育オス)を獲得するためと考えられています。タガメは、オスとメスの性比が1:1であるため、繁殖期、保育するオスが増えると交尾できるオスが減少してしまいます。また、タガメは個体群密度が非常に低い昆虫です。そのため、卵を産む準備のできたお腹の膨らんだメスは、オスと出合った時に、交尾・産卵しなければ、次にまたオスと出会えるかわかりません。そのため、メスは卵を保育しているオスでもその卵を破壊し、オスを得るのです。

「タガメの生態」で掲載しているタガメの写真は、市川憲平氏撮影です。

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世界には、約20種類のタガメがいます。その中には、ナンベイオオタガメL. maximusのように体長が10cmを超えるようなタガメから、メキシコタガメL. uhneilのように体長が4cm程度しかない小さなタガメまでさまざまなタガメがいます。


  
↑アメリカタガメ
Lethocerus mericanus

体に対して前脚が小さい。
↑メキシコタガメ
L. uhneil


メキシコタガメは、タガメの中でもっとも小さなタガメです。メキシコタガメも、オスが卵塊の保育・保護を行います。
↑フロリダタガメ
L. grisens

↑ナンベイオオタガメ
L. maximus

タガメの中で、最大級で体長10cm を超えます。南アメリカには、L. grandisという本種と同様に体長10cmくらいの大きなタガメもいます。植生豊かなため池の縁などに生息し、他のタガメと同様にオスが卵塊を保育・保護します。
L.annvilipes

ライトへの月別の飛来頻度は、6月、7月、 8月が多いとの報告がありますので、その時期が移動期もしくは 繁殖期と考えられます。 
  タガメに比べ、全体的にやや細く,体に 対して前脚が小さい。
L. insulanus

ため池などの止水域に生息します。オーストラリでは、まだ比較的多く生息しているようです。体長は、タガメとあまり変わりません。
↑タイワンタガメ
L. indicus
→タガメL. deyrolli

日本のタガメです。日本最大の水生昆虫のタガメですが、世界のタガメから比べるとちょっと小さいですね。

L. cordfonus

生態や生息環境については情報不足のため不明です。形態は、タイワンタガメで見られるように、頭部から胸部にかけて逆V字の斑紋があります。体長は、タガメよりやや大きく、タイワンタガメとほぼ同じくらいです。
←タガメモドキ Hydrocyrinus

Hydrocyrinus属は、世界に6〜7種が確認され、体長が42cmから70cmと大型の種が多いことで知られています。本種は、タガメに似ていて、タガメモドキと呼ばれることがありますが、前脚の爪が2本あることや、タガメと違い卵塊を背中に背負うなどの違いがあります。
※スケールは2cmです。
※写真の大きさは不等です。
※種説明文の背景色は上記地図の色と対応し、分布地を示しています。

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タガメが属するカメムシ目は、石炭紀後期(約3億年前)にアザミウマ目とともに分化し、三畳紀(約2億年前)に同翅目が分化、ジュラ紀後期(約1億5000万年前)に、現在のほとんどの科が出そろったと考えられています。また、タガメの祖先種は、ドイツゾルンホ-フェンのジュラ紀後期(約1億5000万年前)の地層から見つかっており、タガメ類が比較的古い昆虫であることがわかっています。また、カリフォルニアからは更新世の地層から、現生種に酷似したタガメが化石として見つかっています。
  コオイムシ科の進化を保育行動の様式により考察したSmith(1997)によれば、タガメやコオイムシは保育行動を、1億5000万年前から既に行っていたかもしれないと報告しています。そして、タガメが属するタイコウチ上科NEPOIDEAの進化の過程としては、下記のような過程を経て分かれたと考察しています。


>>なぜ、タガメは卵を保育するようになったのでしょう?  
なぜ、タガメが卵を保護するのかについて、明確な答えは出ていませんが、一つの仮説を紹介します。 元々、タガメの祖先は陸上にいた昆虫でしたが、長い年月を経て水中へ適応していきました。水中には多くのエサ動物がいて、体を大きくした方が有利になりました。そこで、体の大型化への道を歩むのですが、昆虫が大型になる場合脱皮回数を増やす道と大きな初期幼虫を出す道があります。しかし、脱皮回数は系統的な制約があるのか4・5回に定まっています。そこで、大きな卵を産む道を歩みます。しかし、問題が起きました。容積が長さの3乗に比例して大きくなるのに対して、表面積は2乗に比例してしか大きくならないため、水中にあったのでは卵は十分に酸素を得ることができません。それなら、水面から出せば問題ないように思われますが、卵は水中に適応していたためすでに乾燥から守ってくれる頑丈な殻が退化していました。そのため、水面上に出すと乾燥して死んでしまいます。そこで、タガメは水面上に卵を出して、水をかけるという保育行動を発達させたと考えられています。
《引用文献》
Smith, R. L. (1997) Evolution of paternal care in the giant water bugs (Heteroptera: Belostomatidae). In“The evolution of social behavior in insects and arachnids.” . Evolution of sociality. (Cfoe, J. C. and Creapi, B. J. eds.). Cambridge Univ. Press. pp. 116-149.

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